「タイムカード等による勤怠管理をしていないが、賃金台帳をどう作ればよいか」というご相談への回答です。法律が求めているのは「タイムカード」そのものではなく、日ごとの始業・終業時刻の記録と、それをもとに労働時間数と賃金を書いた台帳です。代わりになる記録・必須の記載項目・毎月の手順・保存期間を、図解と条文の根拠付きで1枚にまとめました。
01 まず結論02 記録の原則03 代わりになる記録04 自己申告の5ルール05 台帳の記載項目06 毎月の手順07 保存と罰則08 チェックリスト09 根拠条文
「タイムカードがない」ことと「労働時間の記録がない」ことは別です。記録さえあれば、賃金台帳は作れます。
労働基準法は、会社に対して賃金台帳を作り、賃金計算の基礎となる事項(労働日数・労働時間数など)と賃金の額を、給与を払うたびに記入することを義務付けています(労基法108条)。しかし、労働時間を「タイムカードで」記録せよとは書いていません。
労働時間の把握方法を具体的に示しているのは、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日)です。そこでは、労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、記録することを求め、その方法として「上司などが自ら確認する」「タイムカード・ICカード・パソコンの使用時間の記録などの客観的な記録をもとにする」を原則とし、やむを得ない場合の自己申告制も条件付きで認めています。
ポイント:やるべきことは3つだけです。①毎日の始業・終業時刻を残す仕組みを決める(第2・3章)、②月ごとに労働日数・労働時間数・残業時間を集計する(第6章)、③賃金台帳の8項目に記入して保存する(第5・7章)。
| 会社が備えるべき帳簿 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 労働者名簿 | 従業員ごとの氏名・生年月日・履歴など | 労基法107条 |
| 賃金台帳 | 従業員ごとの労働日数・労働時間数と賃金の内訳。今回のテーマ | 労基法108条・労基則54条 |
| 出勤簿・タイムカード等(労働時間の記録) | 日ごとの始業・終業時刻の記録。賃金台帳の「労働時間数」の裏付け | ガイドライン4(1)(2)・労基法109条 |
※ 上の3つは「法定三帳簿」と呼ばれ、労働基準監督署の調査で最初に提示を求められる書類です。
記録の方法には優先順位があります。原則は「会社側が確認した記録」、例外が「本人の自己申告」です。
ガイドラインは、始業・終業時刻の確認・記録の方法として、次の2つを原則としています。
この2つによらず自己申告制(本人が自分の労働時間を申告する方法)をとる場合は、「やむを得ない場合」に限られ、第4章の5つの措置が必要になります。
もう1つの法律:医師の面接指導のために、会社は従業員の「労働時間の状況」をタイムカード・パソコンの使用時間の記録などの客観的な方法で把握し、その記録を3年保存する義務があります(労働安全衛生法66条の8の3・同規則52条の7の3)。こちらは管理監督者も対象です。賃金計算の観点でも健康管理の観点でも、客観的な記録が原則と考えてください。
「いつ始めて、いつ終えたか」が日ごとに残る記録なら、形は問いません。会社の実態に合うものを1つ決め、必要なら組み合わせます。
| 記録の方法 | 位置づけ | 向いている会社・注意点 |
|---|---|---|
| スマートフォン・パソコンの勤怠アプリおすすめ | 客観的な記録(原則) | 無料〜月数百円/人。打刻・集計・台帳出力まで一体で、最も手間が少ない。GPSや位置情報付きなら外勤にも対応 |
| パソコンのログイン・ログオフ記録 | 客観的な記録(原則) | 事務職向き。PCを使わない仕事には不向き。ログの取得方法を情報担当者と確認 |
| 入退室の記録(ICカード・鍵の記録) | 客観的な記録(原則) | 「在社時間」の証拠になる。労働時間そのものとは限らないため、乖離があれば確認 |
| 出勤簿への手書き+上司の確認印 | 現認による記録(原則)/上司が確認しなければ自己申告 | 設備投資ゼロで今日から始められる。時刻(例:9:02〜18:15)まで書き、「○」だけの出勤簿にしない |
| 業務日報(始業・終業時刻欄つき) | 自己申告(例外) | 日報文化がある会社向き。第4章の5ルールが必要 |
| メール・チャットでの「始業します/終業します」報告 | 自己申告に近いが送信時刻が客観的に残る | テレワーク・直行直帰向き。送信時刻がそのまま証拠になるので、口頭より強い |
過去の分はどうするか:これまでの期間についても、シフト表・日報・メールの送信時刻・入退室記録など残っている資料から労働時間数を復元し、本人に確認したうえで賃金台帳を整えます。残業していたのに固定給しか払っていなかった場合は、割増賃金の未払いが生じている可能性があるので、復元と同時に精算の要否を確認してください。
出勤簿への本人記入や日報で運用する場合は「自己申告制」にあたります。ガイドラインは次の5つの措置を求めています。
労働時間の実態を正しく記録し、適正に申告することを、対象の従業員に十分説明する
実際に労働時間を管理する上司にも、自己申告制の正しい運用を十分説明する
申告と実際が合っているか、必要に応じて実態調査を行い、ずれがあれば労働時間を補正する
入退室記録やPCログと申告に大きな差があれば理由を確認。「自主的な残業」でも指示があれば労働時間
「残業は月○時間まで」と申告に上限を設けるなど、正しい申告を妨げる措置をとらない
実務の目安:手書きの出勤簿で運用するなら、①出勤簿の様式に始業・終業・休憩の時刻欄を設ける、②本人が毎日記入し、上司が毎日または毎週確認印を押す、③月末に上司が残業の有無と理由を確認する、の3点をルール化すると、上の5つをほぼ満たせます。
法律で決まっているのは「何を書くか」です。8項目が揃っていれば、Excel でも給与ソフトの出力でも賃金台帳として認められます。
| 項目 | 書くこと | 記入のポイント |
|---|---|---|
| ① 氏名 | 従業員の氏名 | 1人につき1枚(1シート)で作る「各人別」が原則 |
| ② 性別 | 男・女 | |
| ③ 賃金計算期間 | 例:9月1日〜9月30日 | 締め日に合わせる。1か月を超えない日雇いは省略可 |
| ④ 労働日数 | 例:20日 | 有給休暇の日は労働日数に含めない(別欄で管理するのが一般的) |
| ⑤ 労働時間数 | 例:168時間 | 実際に働いた時間。第2〜4章の記録から集計する |
| ⑥ 時間外・休日・深夜の労働時間数 | 例:時間外8時間/休日8時間/深夜2時間 | それぞれ別に書く。割増賃金の計算根拠になる。就業規則の所定労働時間を基準に算定してもよい |
| ⑦ 基本給・手当など賃金の種類ごとの額 | 例:基本給/役職手当/通勤手当/時間外手当 | 「総支給額」だけでは不可。手当ごとに分ける。現物支給があれば評価額を書く |
| ⑧ 控除した額 | 例:健康保険/厚生年金/雇用保険/所得税/住民税 | 法定控除・協定控除ごとに書く |
実際の台帳のイメージは次のとおりです(1人・1か月分)。
| 賃金台帳(様式第20号のイメージ) 氏名:○○ ○○ 性別:男 | |
|---|---|
| ③ 賃金計算期間 | 2026年9月1日 〜 9月30日(支払日 10月25日) |
| ④ 労働日数 | 20 日 |
| ⑤ 労働時間数 | 168 時間 |
| ⑥ 時間外労働時間数 | 8 時間 |
| ⑥ 休日労働時間数 | 8 時間 |
| ⑥ 深夜労働時間数 | 2 時間 |
| ⑦ 基本給 | 250,000 円 |
| ⑦ 通勤手当 | 10,000 円 |
| ⑦ 時間外手当・休日手当・深夜手当 | (それぞれの額) |
| ⑧ 控除(健康保険・厚生年金・雇用保険・所得税・住民税) | (それぞれの額) |
| 差引支給額 | (合計) |
※ 数字は記入例です。様式第20号(常用労働者用)・第21号(日雇用)は厚生労働省の「主要様式ダウンロードコーナー」から入手できます。
形式は自由:法律上は様式第20号で作ることになっていますが、8項目が揃っていれば横書き・Excel・給与ソフトの帳票でも構いません。多くの給与ソフトには「賃金台帳」の出力機能があり、勤怠アプリと連携すれば⑤⑥が自動で入ります。
例外:管理監督者など労働時間の規制が及ばない人については、⑤労働時間数と⑥の欄は法律上省略できます。ただし深夜割増は管理監督者にも必要なので、深夜労働時間数は記入しておくことをおすすめします。
給与計算と同じサイクルで回します。台帳は「支払いのたびに、遅れずに」記入するのが法律の要求です。
出勤簿・アプリの記録を締め切る。未記入・打刻漏れは本人と上司で確定させる
人ごとに労働日数・労働時間数・時間外・休日・深夜の時間数を数える
基本給・各手当・割増賃金(時間外25%以上、休日35%以上、深夜25%以上)・控除を計算
8項目を賃金台帳に記入。給与明細と同じ数字か確認する
支払日に支給。台帳と出勤簿等の記録をセットで保存する
| 集計項目 | 数え方 | 例(所定 1日8時間・週休2日) |
|---|---|---|
| 労働日数 | 実際に出勤した日を数える | 20日 |
| 労働時間数 | 日ごとの(終業−始業−休憩)を合計 | 168時間 |
| 時間外労働時間数 | 1日8時間または週40時間を超えた分 | 8時間 |
| 休日労働時間数 | 法定休日(週1日)に働いた時間 | 8時間 |
| 深夜労働時間数 | 22時〜翌5時に働いた時間(時間外と重なっても別に数える) | 2時間 |
最初の1か月にやること:①記録方法を決めて従業員に説明する(第2〜4章)、②Excel か給与ソフトで台帳の雛形を用意する(第5章)、③初回の締め日に集計→記入まで一度通して、上司と本人の確認の流れを固める。翌月からは同じ手順の繰り返しです。
作って終わりではなく、保存まで義務です。作らない・書かない・嘘を書く、はいずれも罰則の対象になります。
| 対象 | 保存期間 | 起算日 | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 賃金台帳 | 3年(法律上は5年。当分の間3年に読み替え) | 最後に記入した日(支払日が後ならその日) | 労基法109条・附則143条、労基則56条 |
| 出勤簿・タイムカード等の労働時間の記録 | 3年(同上) | その記録が完結した日 | 労基法109条、労基則56条 |
| 労働者名簿 | 3年(同上) | 退職・死亡の日 | 労基法107条・109条 |
| 労働時間の状況の記録(健康管理のため) | 3年 | — | 労働安全衛生規則52条の7の3 |
実務上のおすすめ:保存期間は「当分の間3年」ですが、法律の本則は5年で、いずれ経過措置が終わる見込みです。最初から5年保存にしておけば、後から運用を変える必要がありません。
上から順に進めれば、最初の給与計算までに賃金台帳が整います。
本ページの記述の根拠です。条文はすべて e-Gov 法令検索の現行法令、ガイドラインは厚生労働省の公開 PDF から取得しました。
| 根拠 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 労基法107条 | 労働者名簿の調製 | e-Gov |
| 労基法108条 | 賃金台帳の調製・賃金支払の都度遅滞なく記入 | e-Gov |
| 労基法109条・附則143条1項 | 賃金台帳等の保存 5年(当分の間 3年) | e-Gov |
| 労基法115条・附則143条3項 | 賃金請求権の消滅時効 5年(当分の間 3年) | e-Gov |
| 労基法120条 | 108条・109条違反、虚偽の帳簿提出等 → 30万円以下の罰金 | e-Gov |
| 労基則54条 | 賃金台帳の記載事項8項目、就業規則基準の算定、管理監督者等の省略 | e-Gov |
| 労基則55条 | 様式第20号(常用)・第21号(日雇) | e-Gov |
| 労基則56条 | 保存期間の起算日(賃金台帳は最後の記入日、支払期日が遅ければ支払期日) | e-Gov |
| 安衛法66条の8の3・安衛則52条の7の3 | 労働時間の状況の把握(タイムカード・PC使用時間の記録等の客観的方法)と記録の3年保存 | e-Gov(法)/e-Gov(則) |
| 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日) | 始業・終業時刻の記録、原則的方法(現認・客観的記録)、自己申告制の5措置、賃金台帳の適正な調製、記録の保存 | 厚労省/PDF |
※ 二次情報として扱った事項:割増率(時間外25%・休日35%・深夜25%)は労基法37条と政令の一般的な内容、勤怠アプリの価格帯、「法定三帳簿」という呼称、様式のダウンロード先。管理監督者の深夜割増は一般的な行政解釈に基づく実務上の推奨です。